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ニートの正一郎

クソニートの正一郎が生きていく。ただそれだけのブログです。小説風。

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正一郎、FXを始める。

 正一郎は焦っていた。
 なぜならすでに50万円ほどのお金をFXで溶かしているからだ。
 それは続かなかったアルバイトでわずかにもらえた給料や、おじいちゃんからもらったお小遣いをコツコツ溜めたお金だった。
 3年で出戻った正一郎のことを邪険にもせずに暖かく迎えてくれた実家の両親にビタ1文渡さずに意地汚く溜めた金を、正一郎はあっという間にFXで溶かしてしまった。
 正一郎の額から汗が一筋流れ落ちる。

「ま、まだ大丈夫なはずだ。じゅ、10万円から6億円まで増やした人がいるんだ。単純に考えて6000倍。500円を300万円にすることだって不可能じゃないはず……」

 正一郎は貯金箱を手に取る。
 ふたを開け、おもむろに小銭を数えだす。

「1265円……。6000倍で759万円か、いける。まだ大丈夫」

 正一郎の頭の中ではすでにその小銭は6000倍に膨れ上がっていた。
 そればかりか、増えたお金の使い道を考えだす正一郎。
 しかし、正一郎も伊達に50万円溶かしていない。
 貯金箱の中にあったこの最後の資金を失う危険性について、高い勉強料を払ったことによって骨身に染みていた。

「もうこの金を失うわけにはいかない。しょうがない、勉強するか……」

 お金を稼いだ後のことばかりをネットで検索して、肝心のお金の稼ぎ方についてはそれほど勉強していなかったことがいままでの敗因であることに、さすがの正一郎でもそろそろ気付き始めていた。
 
「でも勉強っていってもなにを勉強すればいいんだ?」

 正一郎はパソコンの前に座り、FXで勝つ方法について調べてみた。
 あまり有益な情報は出てこなかったが、『FXで〇〇万円稼いだ男』や『プロのFXトレーダー』『FXで月〇〇万円稼いでいる主婦』などのブログがたくさんあった。

「おお、すごい。これだけFXで生活している人がいるならちゃんと勝てる方法があるはずだ」 

 正一郎は次に動画サイトでFX初心者向けの動画を検索した。
 webサイトにも初心者向けのサイトはあったが、意思の弱い正一郎には能動的な学習は向いていない。
 何もしていなくても耳と目から勝手に情報が入ってくる動画は、正一郎のようなクソニートが学習するのには非常に適していた。

「うーん、どれも難しくて全然頭に入ってこない」

 しかし正一郎の脳みそは正一郎が思っているよりワンランク低スペックだ。
 正一郎はなかなか学習に適した動画を見つけられずにいた。
 そればかりかここでも主婦トレーダーなどがテレビで取り上げられた際の動画などが目立ち、正一郎の集中力を削ぐ。
 モチベーション自体は上がっているのだが、正一郎の興味がまた初心者学習から稼いだ後のことに逸れる。
 ふと正一郎は『FX 稼ぐ』と動画検索してみたときにある動画に興味を引かれた。
 それはFXビギナーズちゃんねるという動画だった。
 有名なトレーダーの弟子であるというFX-katsuなる人物が生徒2人にFXを教えていくという内容の1本6分前後のシリーズ動画だ。
 最初はFX-katsuのキャラクターが面白くて見ていた動画だったが、その内容はどんどん専門的なものになっていった。
 しかし不思議なことに、正一郎の低スペックな脳みそにもすんなりと内容が入ってきた。
 正一郎はまさに自分の脳みそにぴったりの初心者向けFX動画を見つけたのだった。
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